霊感の強い人っているよね


†Case7:霊感の強い人っているよね†




幸村君に促されて、彼らと並んで座り、柳君の話しを大人しく聞く。


柳君は私が落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。


「…実は最近、赤也のように部員が幽霊を見たと言って騒ぎだしてな。しかも皆見たと言った数日後には体調不良になったりする」


静かに語られたのはそんな事実だった。


確かに、友人達から噂で最近テニス部の体調が思わしくないことなどは耳にしていたが、私からすればあまり珍しい話でもない。


しかし、幽霊に取り憑かれて体調を崩すこと事態が可笑しいことではないが、少し引っ掛かったのだ。


何故、彼らテニス部だけに限ってそんな事態が起こっているのか。


友人達の話しによると、そんな怪奇現象が起こっているのはテニス部だけで、他の立海生にはなんの影響もない。


だから私は、この部室に入るまで、この部室で誰かが怪談話を頻繁にしたからだろうと予測して放置していた。


怪談話をすれば霊が寄ってきやすい環境になるのは稀だが起こり得ることだからだ。


知っていながら放置していたのはそれらの理由と、一番は私に関係ないし、死に至ったという例はなく大丈夫だと判断したから。


だけど、部室に入って更に疑問を持った。


誰も怪談話をしたようでもないし、悪い雰囲気、つまり幽霊が寄ってくるような環境ではない。


では、どうしてそんな怪奇現象が起こっているのか…?


それに、幽霊はそんなに簡単に見られるものではない。


事実、殆どの人は一生幽霊などというものとは無縁なのだ。


まあ、例外として霊感の強い人はそうも言えないが。


††††††††††


部室の雰囲気が少し重い。


きっとそれ程深刻なのだろう。


確かに部員だって幽霊などという正体のわからないものに対して不安にもなる。


『…誰か怪談話とかしたりしなかった?まあ、その可能性は低いと思うんだけど』


「怪談話…?」


私は部員達を見回してそう尋ねた。


返ってきた返答は、何故そんなことを聞くのかという純粋な疑問。


『怪談話をすると霊が寄ってきやすくなるって言うでしょう?稀にしか起こらないんだけど、有り得ない話じゃないから一応確認でね』


そう言えば、部員達は皆首を横に振った。


今はレギュラーの人しかいないが、部員の誰かが怪談話をしたかくらいなら分かるだろう。


幸村君は一応部員達にも聞くと言ってくれた。


『うん、ありがとう。でもまあ、その線は薄いと思う。そういう悪い雰囲気なら幸村君達にも分かるはずだよ。…そうでしょ?だって幸村君達、幽霊がいるって本気で信じてる。それって多少見えてるってことだよね』


普通なら幽霊を見たと部員が騒ぎ、体調を崩しても信じないだろうし、相手にしない。


赤也君みたいに素直な性格の人は別として、幸村君や柳君みたいな人が幽霊などの存在が見えていないと仮定して、幽霊の存在を信じるだろうか…?


答えは聞かずとも分かる。


だって、彼らは皆うたぐり深いから。


その証拠に今だって、お互い腹の探り合いなんだもん。


††††††††††


数秒の沈黙の後、幸村君が諦めたかのように溜息を吐き出して口を開いた。


「名字さんの言う通り、確かに俺達は幽霊の存在を信じている。だけど、見えているわけじゃない。正しく言うと、感じるんだよ」


幸村君の言葉に嘘はない。


私に嘘をついても何のメリットもないし、それに彼から感じる霊感なるものは微弱であるからだ。


『他に霊感がある人は?』


周りを見回して再度尋ねると、怖ず怖ずといったふうに数人が手を挙げた。


手を挙げているのは柳君と仁王君、それからブン太。


ブン太の幽霊ホイホイな体質は知ってる。


少し驚いたのは仁王君が手を挙げたこと。


彼は今までそんな素振りを全く見せなかったが、彼の性格を考えるとそれは仕方ないかもしれない。


彼の異名は詐欺師だ。


『今、手を挙げた人に聞くけど、どれくらい幽霊の存在を感じてる?』


私の言葉に皆が息を呑んだのが分かった。


††††††††††


「俺は精市と同じで確かに見たわけではないが、何となく気配を感じる」


柳君が重い空気を破るかのように言葉を発した。


続いて仁王も口を開く。


「俺も二人と同じで気配を感じるだけじゃ」


そう、と納得したように私が頷けば、幸村君が丸井はどうなのと尋ねる。


ブン太は暫く口をもごもごと動かし言い淀んでいたが、不意に吹っ切れたように口を開いた。


「俺は幽霊が見えるし、幽霊の声も聞こえる。…それに幽霊に付き纏われる体質だって名前に言われたよぃ」


尻すぼみになる言葉は偏見や好奇の目を気にしているかのように弱々しい。


彼らがそんなことを気にするとは思わないが、ブン太にすれば人よりも霊感があることは例え仲間であれ隠しておきたい事実なはず。


「へえ…。丸井は幽霊が見えるのか。…それより丸井、今名字さんのこと名前で呼ばなかったかい?彼女との関係、教えてくれるかな」


疑問系ですらない命令口調で語る幸村君。


何故私とブン太の関係を聞きたがるのか分からないが、正直に話さなければ後々厄介な相手。


それに、ブン太は特に嘘をつくことが苦手だし、今みたいに私を下の名前で無意識に呼ぶ癖が治っていない。


††††††††††


私は溜め息をばれないように吐き、幸村君を見据えた。


ブン太は顔面蒼白で今にも気を失いそうだ。


『幼なじみなんだから名前で呼ぶくらい不思議じゃないでしょ?今まで苗字で呼んでもらってたの。ブン太、モテるからね。女子に喧嘩売るような行為は極力避けたいのよ』


フン、とまるで鼻を鳴らすかのように堂々とした態度だが、内心ではブン太よりもビクビクとしている。


その証拠に手汗が異常なほど吹き出ているし、心臓が嫌に忙しなく動いている。


幸村君達が相手じゃなければ確実に平静で居られるくらい何てことない疑問なのに、射るような視線に緊張した。


「…そう。丸井、後で詳しく話しを聞かせてもらうよ。話しを戻すよ。柳が話した通り、今テニス部は君を必要としている。手を貸してくれないかな?」


そんなことをして何か私にメリットがあるのかと言い返そうとしてふと止めた。


確かに、女子達から反感を買ったりマネージャーの仕事なんて御免だ。


だけどこんな幽霊ホイホイな人達が集まるのだ。


ということは、イケメン幽霊に出会える可能性が大幅にアップ!?


美味しいぞ、この取引。


多少面倒だが、イケメン幽霊の恋人をゲットするためだと思えば安いものじゃないか。


『…マネージャー業は免除。多少は手伝うけど。それから部活以外で関わりを持たないことと、部活でも極力女子がいる前では話しかけないで。それが条件』


それでもいいかと目線で尋ねれば、幸村君はニコリと笑った。


「そう、よかった。よろしくね、名字さん」


…やっぱり彼の笑顔は人を引き付けるが、違和感のある張り付いた笑み。


あまり好きなタイプではないかもしれない。




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